心中は武士の手本 その③

かりにも武士である私に貴殿はとんでもない質問をなさるのですね。死を前にしてどうしたら平静でいられるかなんて・・・・・。でも正直申し上げて、私だって自信はないのです。不安になると夜中に短刀をを腹に当てて練習したりしましたが、実際に腹を切る段になると、やはりもがき苦しむのではないかという不安を拭い去ることはできませんでした。なぜなら、以前目にした赤穂義士切腹の図で、義士たちのその時の顔が、みな苦痛で歪んでいるのを見たからです。従容死につくというのは、あくまでそう心がけようという理想であって、命あるかぎりは誰も死を恐れ断末魔の苦痛でもがくのは致し方ないことなのだと悟ったのでした。

 

ところが、この誇り高き武人は、ある日、自分の”悟り”が間違っていたことを思い知らされたのだそうです。一体なにがそうさせたのでしょうか。

 

ある時、わかき男女の相対死を潔くするをみて、今までのことは過てり。(中略)その時、相対死の男女にはおとるまじとおもひ究ばやすからむと悟り、その後は只其ことを不忘、大切にのぞみ道を忘るべからずとのみおもふ也。

 

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