心中は武士の手本 その①

botan川路をして、自分は彼女の百分の一も・・・・・と慨嘆させた相手の遊女は、ではどれほど宗次郎のことを愛していたというのでしょう。二人の心中現場を検視した役人の報告によれば、死骸の側に彼女の遺書が置かれていて、それには「正月五日初めて宗次郎に逢ひ、此人ともに死なむとおもひ定めしに、けふ願のかなひける」と認められていたとか。

一月二十五日に初めて出会った二人。ということは、情死を遂げるまでわずか一月余りの時間しか経っていなかったのです。しかも遺書の文面から推測するに、彼女は、宗次郎を一目見て「この人と一緒に死のう」と心を決めたようです。彼女と彼の間にどのようなやりとりがかわされたのか、川路の日記には何も記されていないので定かでありませんが、男の側に立ってみれば、まるでメイドの道連れを求め待ち受けていた女の綱に掛かったようなもの。そうとしって川治が思い出したのは、子供の頃呼んだ中国明代の怪談集「彅燈新話」中の一編「牡丹燈記」の話でした。この世に迷いでた女の亡霊が男を誘惑して墓穴にひきずりこむというそのストーリーが、宗次郎の中心事件と「少もかはらず」(そっくりだ)というのです。

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