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春画の効用 その⑨

女性が催情の手段として春画を用いた例は、明治の文豪森鴎外の自伝的作品「キタ・セクスアリス」にも克明に描かれています。

鴎外の分身である主人公金井静香が六歳の時といいますから慶応三年頃のことでしょうか。所は中国地方の小さな城下町、武士の子としてうまれた主人公が近所に住む「四十ばかりの後家さん」の家を覗いたところ、後家さんは「どこかの知らない娘」と二人で綺麗に彩色した本を開けていた。主人公の突然の来訪に驚いて顔を上げた二人のその顔面は真っ赤で、「僕は子供ながら二人の様子が当たり前でないのが分かって、異様に感じた」。

「をば様。そりやあ何の絵本かなう」と僕がつかつかと側によると、娘は本を伏せて後家のほうを見て笑う。すつと後家が絵本の中のある部分を指してこれを何だと思うかと聞いた。描かれている人物の姿勢がとても複雑で分かりにくかったので「足ぢやらうがの」と答えると、二人は大声で笑った。してみるとそれは「足ではなかつたと見える」。

どうやらこの娘、後家さんから彼女が持っていた春画を見せてもらっていたようなのです。