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心中は武士の手本 その④

臆せず潔く自ら命を断つ最高のお手本として彼が遭遇したのは、なんと、情痴の果てに心中死を遂げた男と女だったというのです。「これからは心中者たちに負けないように頑張ろう」、そう我が気持ちを励ましながら、切腹その他大切な場に至っても動揺しないよう日々精進しているというのです。

武士でありながら実は切腹を忘れ、しかもその恐怖を払拭するために情死した男女の潔さに学ぼうとしているとは・・・・。さすがにこの話が他に漏れ伝わったら外聞が悪いと思ったのでしょう、こおの人は、名前は決して出さぬようくれぐれも年を押した上で、川路に以上のように語ったのでした。

心中した男女に、死を恐れぬという理由で感嘆を洩らしたのは、なにも川路とこの方だけではなかったと思います。口には出さずとも、”心ある”武士の多くは同様に感じた経験があったのではないでしょうか。もちろん心中した男女に対する法の扱いは冷酷そのものでした。許されぬ恋ゆえに情死を遂げた男女の死体は取り捨てになり、かりに死にきれなかった場合でも、晒し者にされたのちに非人手下、非人頭の支配下とされる定めになっていました。そんな犯罪者に等しい男女に、にもかかわらず、どうやら彼らはひそかに喝采を浴びせていたようなのです。

hinin