カテゴリー別アーカイブ: 春画の効用

春画の効用 その⑪

これまた日本独自の習慣ではありません。「中国古代性文化」によれば、中国では、春画を嫁入り道具として新婦に与え性生活の手ほどきをする習慣はすでに男の時代に成立していたとか。中国は成文化においても、まぎれもなく日本の先輩格なのです。

では大名家などでお姫様の嫁入り道具となった「祝儀専用の枕絵」とは、一体どんなものだったのか。「今日でも六七百年前の古物が残っている。もっと新しいのならば、大名華族の家々には、随分沢山秘蔵されている」と述べているのですが、残念ながら私はまだ現物にお目にかかったことがありません。研究していた当時は、比較的簡単にみることができたのでしょうけれど。

 

 

春画の効用 その⑩

より豊かな性生活を享受するためのテキストとして、あるいは”オナニーの友”として大いに活用されていた江戸時代の春画ですが、このほか春画は(すでにご承知の方もいらっしゃるはず)嫁入り道具としても用いられました。江戸風俗研究家、三田村えんぎょの文章を引用させていただくと、

諸大名・諸旗本の嫁入りには、きっと十二枚つづきの笑い絵を持っていく。これは立派に表層されて、巻物日本になるのがお定まり。

非処女率が高く結前交渉なんて当たり前といった庶民の家の花嫁に較べれば、大名旗本の息女たちにはまだしもうぶな方が多かったのでしょう。そんな未経験の新婦が性生活の実際を学習する一助として、「笑い絵」(春画)が利用されたというものです。

 

春画の効用 その⑨

女性が催情の手段として春画を用いた例は、明治の文豪森鴎外の自伝的作品「キタ・セクスアリス」にも克明に描かれています。

鴎外の分身である主人公金井静香が六歳の時といいますから慶応三年頃のことでしょうか。所は中国地方の小さな城下町、武士の子としてうまれた主人公が近所に住む「四十ばかりの後家さん」の家を覗いたところ、後家さんは「どこかの知らない娘」と二人で綺麗に彩色した本を開けていた。主人公の突然の来訪に驚いて顔を上げた二人のその顔面は真っ赤で、「僕は子供ながら二人の様子が当たり前でないのが分かって、異様に感じた」。

「をば様。そりやあ何の絵本かなう」と僕がつかつかと側によると、娘は本を伏せて後家のほうを見て笑う。すつと後家が絵本の中のある部分を指してこれを何だと思うかと聞いた。描かれている人物の姿勢がとても複雑で分かりにくかったので「足ぢやらうがの」と答えると、二人は大声で笑った。してみるとそれは「足ではなかつたと見える」。

どうやらこの娘、後家さんから彼女が持っていた春画を見せてもらっていたようなのです。

 

春画の効用 その⑧

再び川柳・雑俳の世界から例を挙げてみると、

じんきよして取り上げられる笑本

西川画を手本に丁児かきならひ

最初の句は、オナニーに励みすぎて精力欠乏等による衰弱症になった若者が、持っていた笑本(春本)を取り上げられたというもの。二番目もやはり同様の行為を詠んだ句で、商家の丁稚は西川画(1750年に80歳で没した浮世絵師西川助信に春画の作品が多かったので、西川画といえばすなわち春画を指した)を見てオナニーをやり始める(かき始める)という句意です。

春画を見ながら性的興奮を覚えたのは、もちろん男性だけではありませんでした。「華のあり香」には、性的に欲求不満の奥女中が、本屋がこっそり見せてくれた春画本で「淫念」を動かされ、かなわぬ春情を紛らわすために「指人形」(オナニー)さらには「張茎」(張形。自慰用の摸造男根)の使用へとエスカレートしていく様が記されています。「塗れた絵にかわく暇無き奥女中」という句も同じ情景に取材したものでした。

春画の効用 その⑦

すこし話がそれましたが、いずれにしろこのような春画(ポルノ)の鑑賞法は、古今東西を問わず広く指摘できるのではないでしょうか。元治元年の刊行と推定されている「男女狂訓華のあり香」は、内容豊かな”性の手引き書”。この中にも春画で体位の学習に励む男女の姿が描かれているので、いささか隈雑ながら紹介しておきましょう。

主は本手にかかり、火柱のごとき大茎をづぼくと押し込みながら、手元に有合春画史をくりかへ見るうち、種々に交形の新手を尽くされ、女はいつしかたまりかね、下女の手間へもかりなく大ごへ上げてのよがり泣に、男もこらへずどく(省略)

以上は男女二人で鑑賞する例ですが、春画は、一人でこっそり・・・・という場合も少なくなかったようです。いいえ、むしろこの方がより一般的だったのかもしれません。